◇枕になって◇

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 午前中の授業が終わると、わたしと雅也は校内に設けられた図書室に移動した。 何をどうするにも、まずは相手を知らなければどうしようもない、という雅也の考えからだ。  人気の少ない図書室だからといって、保健室以外に枕があることは不思議なことから、わたしは相変わらず鞄の中に入れられたまま。  開けられたジッパーから机に積み上がった書物に一冊ずつ目を通す雅也を見ていた。 「枕――昔から、人が寝ている時に意識、いわゆる魂が体から抜け出していくという説から、その魂をしまう場所として使われ、『魂蔵』と言われてきた。――へぇ~、知らなかったな」 (雅也、感心してないで早く元に戻れる方法を調べなさいよ!)  流石、幼い頃から物を愛していただけあって、枕の歴史は彼の興味範囲だったのね。  けど、今はそんな寄り道をしている場合じゃないのよ。 「ちゃんと調べてるさ。けど、枕から元に戻る方法なんてどこにも書いてねえし」  ペラペラと一通り目を通した書物を捲っていく雅也。 「それと、これはあくまで俺の考えだけど。お前が枕にされた理由って、普段物を投げたり、乱暴に扱ってるからじゃねえのか?」 (はあ? 別に乱暴になんか扱ってないし) 「んなわけあるかよ。ぬいぐるみは投げるわ、時計は壊すわで、十分乱暴じゃねえか」 (そんなの雅也の勝手な空想でしょ。わたしは何もしてないわ)  だって、物が壊れたりするのも壁に当たって勝手にそれが壊れるんだから、わたしのせいじゃないわ。 (もうこの際、どうしてこうなったのかはいいわ。どうすれば元に戻れるかが重要なのよ!) 「そんなこと言っても、本に書いてあるわけねえし。なにかヒントみてぇなのはねえのかよ」 (ヒント? ヒントねぇ……)  ふと、照明と先程鞄に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。
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