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わたしはこの時初めて、雅也の顔と同じ大きさになっていることを確信した。
(本当だ……なんで!? か、鞄! なにか知ってる!?)
焦ったわたしは、先程から黙って二人のやり取りを傍から見ていた鞄に話しかけた。
『ん? 小さくなることですか?』
(そうよ!)
『さあ、私はなにも』
鞄と話していると、横から雅也が割り込んできた。
「おい、美玖。鞄って俺の鞄のことだよな?」
(他になにがあるっていうのよ)
「マジか! 俺の鞄も話すのかよ。なあなあ、俺のことなにか言ってるか?」
物と会話することに憧れている雅也の目は、プレゼントを貰ってはしゃぐ子どもように目が輝いていた。
(今はそんなこと言ってる場合じゃ――)
『とてもワタシ達を丁寧に優しく扱っていただいて、とても感謝しております』
(ちょっと、あんたもなに真面目に返事してるのよ)
まったく、どいつもこいつも……。
「なあ、なんか言ってないか?」
『美玖さん、伝えてもらえないでしょうか』
「なあ、美玖~」
『美玖さ~ん』
(うるさいっ!)
双方に挟まれる形で言われるわたしは耐え切れず怒鳴った。
(まったく、人事だと思って自分勝手なこと言って)
「お前ほどじゃないと思うけどな」
(なんか言った?)
「いや、別に。――それより、なんで小さくなったりするんだろうな」
(分からないわよ。鞄、本当になにも知らないわけ?)
『いや、特には……。あ、でも改心する様子が見られないたび体が小さくなるって話をどこかで聞いたことがありますね』
怖いですよね、と笑顔で答える鞄。
けれど、わたしは笑顔ではいられなかった。
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