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彼女に促され廊下に出た僕は
焦げ茶色の冷たいフローリングの上を素足で歩いた
何か…何か…
思い出せそうな気がする
釈然としないこの違和感が
何であるのかを…
まるで自分が
自分でないかのような
この異質な感覚が
一体何であるのかを…
顔を上げると
ドアの上部にかけられた
木製のプレートが目に止まった
結衣…
そうだ…結衣と一緒に作った
夏休みの宿題の工作だ
T O I L E T
文字のパーツを2人で
指をボンドでぐちゃぐちゃにしながら作ったんだ…
もう少し…
あともう少しだ…
トイレの横に
洗面所らしき部屋がある
ライトが点きっぱなしで
まるで僕を
待っているかのようだ
結衣の奴…
また消しわすれたな
頬が緩んだのも束の間
僕は…凍り付いてしまった
そこで僕が見たもの
それは…
大きな三面鏡に映った
『僕が初めて出逢う僕』だった
その時!
激しい頭痛と共に
忌まわしい記憶が蘇る
10年前…
事故で愛する家族を残し
この世を去った僕は
さまよい…
そして
妻の再婚相手の肉体を奪って
寄生したのだ
僕は鏡の中の『僕』に言った
「初めまして よろしく」と。
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