或る夏の日の出来事。

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 或る夏の日の出来事。  いつだったかは覚えてはいないが。  最初に会ったのは、暑い夏の日だったことは覚えている。 ※ 八月二十三日  今日の昼、家に帰った。  もっともこれは、自分本来の家だが。  今は通学のため、都会の方にアパートを借りているのだが、今回は夏休みを利用した帰省だ。といっても、ゆっくりできるのは三日くらいなのだが。  家に帰ったとき、家族がもてなしてくれた。父も母も少し老けたが、相変わらず元気だった。弟は少しふくれっ面をして迎えてくれたが、おみやげのひよこ饅頭をあげたら「おいしいおいしい」といって食べてくれた。    その日の夕方。  昼間、弟と一緒にゲームをしてずっと家に閉じこもっていた僕は、気分転換も兼ねて散歩に出かけた。  夕方となると少しは涼しい。ぶらぶらとその辺を回ってみたが、田舎の景色はあの頃と変わっていなかった。  ふと、通りかかった小さな児童公園に、女の人が座っていた。  女の人は自分よりか少し低いくらいの背丈で、涼しげな色の服装をしていた。  頭の上には白いリボンを巻いた麦わら帽子を乗せて、きぃこきぃことブランコの鎖を軋ませながら文庫本を読んでいた。  その近くには古い茶色のトランクが置いてあった。どうやらここで本を読んでいたらしい。  その女性を見ていたら風が強く吹いた。  少し目をつむり、風をやり過ごすと、足下に麦わら帽子が落ちていた。  それを拾うと「すみません」と声がする。 「拾ってくれて、ありがとうございます」  女性がお礼を述べて、いえいえ、足下に落ちていたものですから、とありきたりな言葉を言って女性の顔を見た。  驚くほどに白い肌。流れるような黒髪とは逆に、引き込まれるような深い黒の瞳。  びっくりするほど、その人はきれいだったのだ。 「あの、帽子」 「え? あ、いやすみません」  そう言って、僕は帽子を彼女に返す。彼女はまたお礼を言って、その場を去った。  その背中を見送った後、僕も、彼女とは逆の道を通った。  帰ってきてみるとちょうど晩ご飯の支度をしていた。  弟が「どこに行ってたん?」と聞いてきたので散歩だ、と答えていた。  夕食はエビフライだった。おいしかった。 ※ 八月二十四日  朝から暑い。  扇風機がまるで機能していないように思えた。  窓を開けても熱風しか入ってこない、そんな感じだ。
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