ヒオウギ

5/5
前へ
/7ページ
次へ
アヒャナとアマネは手を繋ぎ、アマネのお爺ちゃんの家へ続く道を歩いていた。 「ねぇ、お兄ちゃんの名前は何て言うの?」 アマネはアヒャナを見上げる。 「そう言えばまだ教えていなかったな。俺の名前はアヒャナだ」 アマネはアヒャナの名前を聞いた途端、立ち止まる。 「ん? どうした」 そのまま歩るこうとしたアヒャナの体は引き戻された。 「その名前、お父さんとお母さんから貰ったの?」 アマネは今にも泣きそうな顔でアヒャナを見る。 「急にどうした? この名前は自分でつけたんだ」 アヒャナは屈むとアマネの目線に合わせる。 「なんで? なんで“死んだ子”なんて名前つけたの?」 今度はアヒャナの動きが止まる。 「坊主、どこで古語を知った? お爺ちゃんに教えてもらったのか?」 「…………」 アマネは口を結ぶと俯いた。 「そうか、まぁ無理にとは言わない。だがな、アマネ。古語をむやみに遣わないことを約束してくれないか」 「……うん」 アマネは少しの間の後に消え入りそうな声で言った。 「よしっ。坊主、顔上げな」 アヒャナはアマネの頬を両手で挟むと顔を自分の方に向かせる。 アマネは頬に広がる冷たさにヒヤッ、と声を出した。 「知っているかも知れないが、坊主の名前の意は“知識”だ。恥じること無く、知識欲を満たせ。だが、その知識をひけらかすようなことはしてはいけない。」 「なんで?」 アマネは不思議そうにアヒャナの瞳を覗く。 「知識は他人に見せびらかすために増やすんじゃない。将来の自分のために増やすんだ」 「将来の自分のため?」 「そうさ。坊主、あの木に留まっているのはなんだ?」 頬から手を離すと道の端の方に生えている木を指差した。 「明日鳥(ファーハ)だよ」 「なら明日鳥が木に留まっている事が何を意味すか分かるか?」 「もうすぐ雨が降る」 「そうだ。坊主は雨が降りだす前にに早く家に帰ろうとするだろ?」 「うん」 「そうやって前に覚えた“知識”は将来の坊主を助けてくれる。そして、“知識”とは人間の人生を顕著に示す」 アヒャナはそう言うとアマネの頬をギュッと挟むと手を離した。 「坊主はまだまだ成長する。頑張れよ」 「うん!!」 アマネは大きく頷く。 「うっし。じゃあ雨が降りだす前に早く行こうか」 2人はまた手を繋ぐと歩き出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加