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アヒャナとアマネは手を繋ぎ、アマネのお爺ちゃんの家へ続く道を歩いていた。
「ねぇ、お兄ちゃんの名前は何て言うの?」
アマネはアヒャナを見上げる。
「そう言えばまだ教えていなかったな。俺の名前はアヒャナだ」
アマネはアヒャナの名前を聞いた途端、立ち止まる。
「ん? どうした」
そのまま歩るこうとしたアヒャナの体は引き戻された。
「その名前、お父さんとお母さんから貰ったの?」
アマネは今にも泣きそうな顔でアヒャナを見る。
「急にどうした? この名前は自分でつけたんだ」
アヒャナは屈むとアマネの目線に合わせる。
「なんで? なんで“死んだ子”なんて名前つけたの?」
今度はアヒャナの動きが止まる。
「坊主、どこで古語を知った? お爺ちゃんに教えてもらったのか?」
「…………」
アマネは口を結ぶと俯いた。
「そうか、まぁ無理にとは言わない。だがな、アマネ。古語をむやみに遣わないことを約束してくれないか」
「……うん」
アマネは少しの間の後に消え入りそうな声で言った。
「よしっ。坊主、顔上げな」
アヒャナはアマネの頬を両手で挟むと顔を自分の方に向かせる。
アマネは頬に広がる冷たさにヒヤッ、と声を出した。
「知っているかも知れないが、坊主の名前の意は“知識”だ。恥じること無く、知識欲を満たせ。だが、その知識をひけらかすようなことはしてはいけない。」
「なんで?」
アマネは不思議そうにアヒャナの瞳を覗く。
「知識は他人に見せびらかすために増やすんじゃない。将来の自分のために増やすんだ」
「将来の自分のため?」
「そうさ。坊主、あの木に留まっているのはなんだ?」
頬から手を離すと道の端の方に生えている木を指差した。
「明日鳥(ファーハ)だよ」
「なら明日鳥が木に留まっている事が何を意味すか分かるか?」
「もうすぐ雨が降る」
「そうだ。坊主は雨が降りだす前にに早く家に帰ろうとするだろ?」
「うん」
「そうやって前に覚えた“知識”は将来の坊主を助けてくれる。そして、“知識”とは人間の人生を顕著に示す」
アヒャナはそう言うとアマネの頬をギュッと挟むと手を離した。
「坊主はまだまだ成長する。頑張れよ」
「うん!!」
アマネは大きく頷く。
「うっし。じゃあ雨が降りだす前に早く行こうか」
2人はまた手を繋ぐと歩き出した。
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