9人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ちゃん。ぉ……て……お……て……」
上から降ってくる小さな声がアヒャナを夢から引き上げた。
「お兄ちゃん!! 起きて!!」
頭が冴えてくると、小さかった声は大きく、ユサユサと揺られる度合いも大きく感じる。
アヒャナが何事かと思い目を開けると、7才ぐらいの男の子が一生懸命アヒャナに向かって呼び掛けている光景が飛び込んできた。
「うわっ。なんだい坊主」
「坊主なんかじゃないやい!!」
アヒャナの言葉が気に障ったのか男の子は声を荒げる。
「ごめん、ごめん。ぼう……じゃなくて、えっと名前は何だ?」
「えっ? あっ僕? アマネだけど……」
アマネは自分を指差し、名前がどうした、という表情を浮かべる。
「アマネか。いい名前じゃないか。坊主とか言って悪かったな」
アヒャナはヒョイッと起き上がると、アマネの方を向き申し訳なさそうに顔の前でチョップをつくった。
「いや。僕は坊主でも構わないよ」
「えっ。さっき坊主なんかじゃない的なこと言ってなかったか?」
「あっそうだよ!! お兄ちゃんこんな所で寝てたら危ないよ!! ここは森に近いから早く向こうに行こ!!」
そう言うや否や、アマネはアヒャナの手を握って駆け出そうとする。
「わっ。ちょっと待った。あっ……」
急に引っ張られたアヒャナは体制を崩してしまい倒れた。
アマネもアヒャナと手を繋いでいたため、アヒャナの方に倒れそうになる。
しかし、アヒャナはアマネが倒れるすんでんのところで、手を握っている方の腕を押し返した。
「大丈夫か?」
アヒャナはアマネが倒れていないのを確認すると、良かったと声を漏らす。
「あっごごめんなひゃい」
アマネは自分のしてしまった事を思い出し、とっさに頭を下げ、膝と頭をくっつけた。
「ぷっ、俺は大丈夫だ。それより腕は痛くないか?」
「全然大丈夫だよ!! ほらっ」
アマネはこれでもかと腕をブルンブルンと回す。
「あはっあははっ、坊主は面白いな」
アヒャナは必死に腕を回すアマネを見てゲラゲラと笑った。
そんなアヒャナを見て、アマネは馬鹿にされたと思い、頬を膨らます。
「そう怒るな。別にからかってるわけじゃない。そうだ。早く此処から離れた方がいいんだろ?」
「そう!! お兄ちゃんついてきて!!」
アマネはアヒャナの言葉で大事な事を思い出すと、薄暗い森とは反対側に向かって走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!