竜の姫

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「お母さん、大丈夫?ツラくない?」 私は頻繁にお母さんに話し掛けた。 それは、お母さんを本気で心配する気持ちもあったけれど、 時折耳に入る噂話が怖くて、気を紛らわすためでもあった。 すると、お母さんは汗だくになって「大丈夫」と微笑んだ。 綺麗な顔だ。 お母さんは、本当はとても美人なのだが、住民はそれを含め、良く思っていない。 美人なのに、どうして? どうして、お母さんと私は嫌われているの? …そんなこと、聞けるわけがなかった。 「ニーナ、夕食の材料買おうか」 お母さんは、野菜の並ぶ屋台の一つを指差した。 私は黙って頷く。 私達はその屋台に歩み寄った。 私達が店を覗きこむと、 店の主人は、背中を見せて金の勘定をしていた。 50歳くらいだろうか、目元に優しげな皺がよっているのが斜めから見えた。 「すいませーん、おすすめの野菜ってありますか?」 お母さんは、笑顔で呼び掛けた。 それに気付いて、店の主人は笑顔で振り返ったが、 直ぐに顔を青ざめさせた。
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