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私は訴えるように、眉を下げてお母さんを見上げた。
お母さんは、強い眼差しで家の方向をじっと見つめていた。
お母さんは、しばらくすると早足で歩き出し、
私は慌ててその背中を追っかけた。
視界に入るお母さんの後ろ姿が、強くて、強くて、憐れだった。
お母さんの長い金髪が、背中で哀しげに揺れた。
家に帰ると、お母さんは、咳き込みながら黙って布団に入って行ってしまった。
外出したことは、体に大きな負担になったのだろうが…、
お母さんが何一つ言わずに寝てしまう。
今までこんなことなかったのに。
やはり、さっきの屋台の店の主人の言動が原因だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
お母さんとの外出から帰って来て、しばらくした頃。
「ニーナ、いるか?」
ぼろい台所で野菜を切っていると、私と同い年の少年が扉から顔を覗かせた。
私はその顔を見て、包丁を動かす手を止めた。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「―…ハヤト!!」
ハヤトは、にっと笑う。
「久しぶりだな、ニーナ」
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