回想Ⅰ

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回想Ⅰ

お父さんは よそに女の人が出来て いなくなりました。 弟は、跡取りだから。 父に引き取られて行きました。 「お父さん、私は?」 私と視線を合わせようとしない、お父さん。 お母さんは、笑顔で言う。 「路深(ろみ)。お父さん、外に路深と同い年の娘がいるんだよ。 美亜ちゃんて言ってね、聖華学院に通ってる。」 何、言ってるの お母さん‥お父さんの娘は私でしょ? 聖華学院‥入りたくて、 頼んで 「お前には無理だよ」 諭されて 許してもらえなくて でも行きたくて 必死に勉強して お母さんに頼んで、願書ももらって受験して 受かったんだ。 お父さん、喜んでくれるかな? 許してくれるよね!? でも、 合格証書はびりびりに破かれた。 「分不相応(ぶんふそうおう)だよ」 そう言われた。 「公立に通いなさい」 はい。 はい、お父さん。 遥は弟だけど、私立に通ってる。 塾にも行ってる。 よくお父さんの会社にも、連れて行ってもらってる。 「私も行きたい」 「お前の来るところじゃないよ」 いつもそう。 いつも私の言葉は否定で返される。 私の目を見ようともしない。 お母さんは、 「遥は跡取りだから」    「路深は女の子だし、お嫁に行くでしょ。男親なんて、寂しくならないように、今から訓練してるのよ。」 そう、言ってくれてた。 少しの悲しさと、諦めと、寂しさもあったけど。 お父さんも、お母さんも、遥にも、笑顔があったから 私は目の前にあるものを信じられていた。 私の家族。 私の居場所。 私の存在意義。 でも‥‥ 出て行ったお父さんは 最後まで私の顔を見ようとはしなかった。 「路深、お母さんと一緒。 いらない。て、捨てられちゃったね」 お母さんの言葉が突き刺さる。
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