*episode.1*

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 「ンッッ…アッッ…」  自分から漏れた声にハッと我に返って課長から離れた。  「もう遅いから送っていくよ」  何もなかったかのようにサラッと言う課長に、  “今のは?”って聞いてしまいそうになったのをグッと飲み込んだ。  聞いたところで“冗談だよ”なんて言われたら恥ずかしすぎて耐えられない。  明日からどんな顔をして仕事をしたらいいか分からなくなる。  だから私も何事もなかったように、  「いえ、大丈夫です。こんな三十路女なんて誰も相手にしませんから」  そんな風に答えながら笑って課長を見ると、  「じゃあ俺はそんな女に結婚を申し込んだってことか。覚悟しろよ、幸せにしてやるから」  ポンって頭に手を乗せられて、交際の申し込みではなく結婚の申し込みをされてしまった。
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