プロローグ

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「すご~い!きれいだね!!」 「あぁ、綺麗だな!お前は花火が好きなんだな?」 「うん、大好き! だって、こんなにきれいなんだもん!」 5歳の少女が、まばゆいばかりの光に包まれた空を、のけぞるように見上げながら父親と会話している。 今日は夏祭り… 花火大会が終わり、父親と手をつないで歩き始めた少女が、ふと足を止めて 「あれ…可愛いな。」 出店の棚に並んでいるアクセサリーを指差し、愛くるしい顔で父親を見ながら言った。 「しょうがないなぁ…。」 父親はそう言いながらも、愛情たっぷりの笑顔で 「ひとつだけだぞ。」 娘の頭を撫でながらそう言った。 少女は目を輝かせながら 「ありがとう! どれにしようかなぁ…」 店に並んだアクセサリーを選び始めた。 少女は、銀色の花びらの真ん中に真っ赤な宝石(もちろんイミテーション)をあしらったペンダントを手に取り 「これ!」 満面の笑顔で父親に差し出した。 「パパありがとう!」 「大事にするんだぞ。」 「うん!ワタシの宝物!」 幸せそうな笑顔で答える少女。 再び手をつないで歩き始めた二人が神社の境内にさしかかった時、急に父親が足を止めた。 「パパどうしたの?」 少女は父親を見上げながら言ったが、何も反応しない… 気が付くと父親だけではなく、周りの全てが動きを止めている。 少女以外の物、全ての時間が止まってしまったのだ。 少女はどうして良いかわからず、辺りを見回していると 大きな木の下の暗がりに、自分と同じぐらいの女の子が立っているのが目に入った。 父親の手を離し、恐る恐る女の子の方へ歩いて行く少女… 近くまで行った時、気配に気付いた女の子が少女を見る。 そして 「お姉さん…助けて。」 半ば呆然とした表情で、呟くように言った。 どうして良いかわからず戸惑っている少女に 「ねぇ…助けてお姉さん!」 今度は泣きながら叫ぶ女の子… 急に怖くなった少女は、急いで父親の所へ戻り、力いっぱい手を握った。 「痛っ! ずいぶん力持ちだな。」 娘の握力に驚いた父親が口を開いた瞬間、再び時間が動き出した。 「パパ…あそこ…。」 少女が怯えながら、木の下を指指した。 「ん?どうした?」 父親が娘の指差した木の下を見たが、そこにはもう女の子はの姿は無かった。
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