1・旅行

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「美味しい?」 「…味うすい。」 「失礼だね! 一生懸命作ったんだからウソでも『美味しい』って言ってよね!」 昼下がりのキャンパス。 初めて作った弁当の味をけなされ、膨れっ面で恋人に文句を言っているのは、黒田未希(21歳)…この物語のヒロインである。 大手証券会社で役員をしている父と優しい母の間で、何不自由なく育った未希。 育ちの良さのせいか、少し子供っぽい所がある反面 どこか《影》のようなものを感じさせる、不思議な魅力を持った女性に成長していた。 「お世辞言ったって料理上手くならないだろ?」 「そうだけど… もう少し言い方あるじゃん?」 「言い方って?」 「例えば…『美味しいけど、もう少し味を濃くしたら、もっと美味しくなるかな?』とかさ。」 「そんな面倒くさい事やってらんないよ。」 「あぁ~、冷た~い!」 未希は終始膨れっ面だが、本気で怒ってはいない。 むしろ、恋人との《じゃれあい》を楽しんでいた。 昼休みが終わり、未希は午後の講義を受ける為に教室へ戻った。 「また彼と昼ご飯? 羨ましいなぁ。」 席に着くと、隣りに座っている親友、山下久美(21歳)が話し掛けてきた。 「久美だって彼氏出来たじゃん。 どうして一緒に食べないの?」 「…別れた。」 「えぇっ!? 付き合ってまだ一週間だよね?」 「6日!」 「…なんで別れちゃったの?」 「ケンカした時…グーで殴ったら『こんな野蛮な女だと思わなかった』って…。」 「ホントにもう… どうして久美はそうなの? もう少しおしとやかにしなきゃダメだよ。」 「性格だから仕方ない! いいの。また新しい男探すから!」 二人は、いかにも若い女の子らしい会話をしながら…講義は全然聞いていなかった。 「ねぇ、そんな事より、今度の夏休みに旅行しない?」 「急に旅行って…行きたい所でもあるの?」 「別に、どこっていうのは無いけど、たまには気晴らしもしたいし…。」 「そっか、傷心旅行だね? いいよ、付き合ってあげる。」 悪戯っぽい笑顔で言う未希に 「そんなんじゃないよ!」 そう言って、久美は口を尖らせた。 「怒らないの。 で、どこ行こうか?」
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