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「ふ~ふふんっふふ~~ん♪」
朝。
タンッタンッと軽快に階段を上る音が静かな一軒家に響く。
『彼女』は上機嫌に鼻を鳴らしながら、ある人の部屋へと向かう。
黒地にチェックの入ったギャザースカートを揺らし、腰まで伸びた濡れ羽色の髪もそれに合わせてユラユラ。
「えへへ、今朝も愛でてあげるねぇ♪」
彼女は扉の前に立ち、若干の興奮を抑えながら頬を赤く染めて微笑んだ。
手には最新機種の携帯。
白を基調とした明るめのデザインのそれから、少し汚れの目立つストラップが結び付けられている。
「すー…はー…、ぃよしっ!」
深呼吸を済ませ、いよいよドアノブに手を伸ばす。
カチャリという音が解扉(かいひ)を報せ、そのままゆっくりと奥へと扉を押す。
「ふふ、良夜(りょうや)ったら寝坊助さんだなぁ」
彼女はベッドに近付き、良夜と呼ばれた少年の顔を覗き込む。
眠っているせいで、長めの前髪が所在なく散っていた。
しかし、それでも彼の見た目が損なわれているワケではない。
男性にしては長いまつ毛、鼻筋の通った高い鼻。
肌もキメが細かく、歯並びも悪くない。
……と、ここで彼女は先程の携帯を開く。
「これはー、良夜の成長の記録を保存してるだけだからね?」
ニコニコと笑いながら、彼女は連続撮影で彼の寝顔を記録(盗撮)していく。
本来なら『カシャッ』とか『ピロリロリン』なんていう耳障りな電子音が鳴り響くのだが、そこは抜け目なくアプリで消している。
もちろん、そのアプリは違法なモノだ。
「うっはー!由々しいよ!由々しいよぉ!」
携帯を持っていない方の手を頬に当て、彼女の顔は恍惚そのものへと変わっていく。
これはもう、間違いなくブラコンの典型だろう。
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