冬苺

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  初めて握った画材はクレヨンと画用紙。 初めて描いた人物画は柚姉。 次に握った画材は色鉛筆。 次に描いた人物画も柚姉。 3番目に握った画材は絵筆とカンバス。 この頃には人物画ではなく静物画に興味を持ち始めていた。 よく考えると、コピックや油絵の具には触れていなかった。 絵を描き始めた理由は、柚姉の父である宮森 春馬の絵に惹かれたから。 優しい絵。 初めて義母となった柚希さんに見せて貰って感じたのは、油絵の具では出しにくい線の柔らかさによる優しい雰囲気だった。 小学校高学年になると、俺は画壇の世界を知るべく地域のコンクールから全国規模のコンクールに幅広く出展した。 別に秀でた技術は無かった。 それでも歳を重ねる毎に受賞する回数が増え、審査員の評価には決まってこんな言葉が添えられた。 『誰かと一緒に見たい風景です』と。 言われて気付いた。 俺が絵を描くとき、隣には必ず柚姉が居たんだ、と。 楽しそうに笑い、上手く描けたことを誉めてくれる、そんな人が居たから俺は描き続けたのかもしれない。 でも、最後のだけは――。 最後の『星雲展』だけは、柚姉が受験生だったせいで1人で描いていた。 だから、俺は過ちを犯した。  
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