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柚姉がネクタイを結ぶ間、俺は手持ちぶさたになっていた。
うーむ、これって結構照れ臭いな。
「よっし、出来たよー」
ポンッと俺の胸に手を当て、結び終えたことを報せる柚姉。
「ありがと、明日までには覚えと……む?」
「だ~め♪お姉ちゃんが毎朝してあげるんだから、ね?」
俺の口を人差し指で制し、柚姉は微笑んだ。
ふっくらとした小さな桜色の唇の口角が上がり、白い歯が零れる。
「……っ…ぁ……かわぃ…」
「ん?どうかした?」
思わず出そうになった本音を、口許を隠して濁らせた。
今のは反則だろ。
幸か不幸か、柚姉はあまり自分の容姿の良さに気付いていない。
垂れ目気味の大きな瞳も、同性なら誰もが羨む形の整った小鼻も、柚姉にとっては『自分は標準』なんだとか。
世のそういうので悩んでる人に謝れや!
*
「おはよ、柚希(ゆずき)さん」
柚姉と2人で階段を下り、リビングに居た女性に朝の挨拶をする。
……が、爽やかな挨拶に対して柚希さんは不満そうに頬を膨らませてそっぽを向いた。
「……ママって呼んでくれないと返事しないもん」
「してんじゃん」
俺の言葉にハッとし、しおしおとショボくれる柚希さん。
この義母にしてこの義姉あり。
何を隠そう、柚姉の実の母親がこの柚希さん。そっくりだ。
柚希さんの容姿はかなり若々しい。
というのも、彼女が柚姉を産んだのは高校卒業から数ヶ月も経たない8月のことだったからだ。
つまり、今年で36になるんだとか。
髪は柚姉と同じく濡れ羽色、長さはミディアムが当てはまるだろうか。
肩甲骨まで伸ばしたそれを、柚希さんはうなじの辺りでシュシュでまとめて肩に掛けている。
スタイルも三十路を超えたとは思えないほど魅力的で、余分な脂肪も無い。
実際、昔買ったジーンズを今でも履きこなしているのだ。
もはや柚姉の美貌はこの人からの遺伝だ、と言っても過言ではないと思う。
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