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家に上げてもらうと今この家にいるのはヒロミさんだけの様だ。
「よかったですよ。ヒロミさんだけで」
「…マサト君。ヒロキをか……」
「では、用件ですけどこれにサインをお願いできます?」
俺はヒロミさんの言葉を遮り本題に入るため一枚の紙をヒロミさんの前に出す。
「…これは……?」
「転校届です。一応、親のサインが必要ですから。けれど、金は要りません。俺が全てやります。あなたはただ、これにサインをしていただければ結構ですので」
本当の親でなきゃいけないとか面倒なだけだ。でも、保護者はヒロミさんになっているのだから仕方ない。
「転校って!?ヒロキが学校をやめたのは君が無理やり行ったのか!?」
「そんなわけないでしょ。あの子の意志です。学校なんてあの2人に会いに行くようなものですから」
すっと睨みながら言うとヒロミさんは唇をかみしめた。
「どこに……どこに行かせるんだ」
「あなたには知る権利あります?俺はないと思いますけど。いいから、さっさと名前だけ書いて下さい」
「それくらい教えてくれて良いだろう!俺はあの子のヒロキの父親なんだぞ」
「今更、言える立場ですか?ヒロキがここにいる時は心配も何もしなくなったあなたが、居なくなった途端心配するなんてどの神経でしているんだよ」
俺みたいに元から見限られて放って置かれててしまった人間なら兎も角、愛されていたのにいきなり愛されなくなったヒロキに対してこんどはその逆をしようと?
それをループさせて行こうって言うのか?
「ヒロキが選んだのは、最後に手を伸ばしたのは俺にだ。俺はその手を掴んだ。ずっと、あんたに向かって伸ばしていたのにそれを無視していたのはあんた。それを知らないと言うなら本当に親失格としか言えない。姉貴の大事な息子をあんたのもとに置いとけるわけがないんだよ」
息をのむ声が聞こえる。
本当の事を言われたからだろうか。
そんなの、もう知った事じゃないけれど。
「さぁ、もう話は良いでしょ。サインを下さい。ここの家の者が帰ってきては面倒ですので」
家にヒロキが待っているから。
そう心で言いヒロミさんをみる。ヒロミさんはずっと書く事を拒んでいたが震えながらやっとサインをした。
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