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もやのかかった視界の中で、目にしたものはひとりの少女。彼女はこちらに背中を向け、立ち尽くしている。
少女が見つめていたものは自分の手。
足下に広がるものは…
死体。
人間の一部と思われる残骸が、地を赤く染め、無数の山をなして転がり落ちている。
まるで、死臭の漂う地獄絵図でも見ているかのようだ。
赤く、どこまでも続く視界の中、少女は不気味に笑い振り向いた。
その顔は…
「アン…!!」
息をきらせて目覚めた彼女は、
自分が、自室のベッドに寝ていたことに気がついた。
「夢…!?」
一体どこからが…?
頭痛がする。
夢の最後に見た少女の顔は、確かにアンだった。いや、夢とは言い切れない…妙な不快感がある。
だがその時、突如腹に激痛が走った。
「…っ!!」
声にならぬ叫びをあげベッドから転がり落ちた彼女は、一瞬にして青ざめた。
腹で、何かが蠢いている。
それは、徐々に大きさを増していくかのように腹の肉を波立たせ、身動きをする。
修道女は呻き、助けを求めながら部屋の扉にすがりつく。
扉は簡単に口を開け、彼女は廊下へ投げ出されるかのように外へ転がり出た。
すると
「開けろっ!!姿を見せろ!!」
「出て来い魔女!!」
それは、激しい打撃音とともに、教会の正面口から聞こえてくる。村人達の声だ。
何十にも重なる罵声が、彼女の恐怖心を駆り立てる。
「アン…!アン!!どこにいるの!アン!!」
ただ首を横に振り、後退りながらひたすらにその名を叫ぶ。
だがそのすぐ近くで、どこかの扉が破られる音が聞こえた。
途端、先程まで正面から聞こえていた罵声が、一斉に背後からのものにかき消される。
「いたぞ…!!」
「…見ろ!!なんだあの腹は!?」
「化物だ…!!」
「捕まえろ!!」
彼女の腹は、異常な早さで膨張を続け、中の『何か』が動きを止めることはない。
「私じゃない…私じゃないわ!!!」
修道女は叫び、激痛をも忘れて逃げ出した。
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