少女と修道女

5/7
前へ
/10ページ
次へ
もやのかかった視界の中で、目にしたものはひとりの少女。彼女はこちらに背中を向け、立ち尽くしている。 少女が見つめていたものは自分の手。 足下に広がるものは… 死体。 人間の一部と思われる残骸が、地を赤く染め、無数の山をなして転がり落ちている。 まるで、死臭の漂う地獄絵図でも見ているかのようだ。 赤く、どこまでも続く視界の中、少女は不気味に笑い振り向いた。 その顔は… 「アン…!!」 息をきらせて目覚めた彼女は、 自分が、自室のベッドに寝ていたことに気がついた。 「夢…!?」 一体どこからが…? 頭痛がする。 夢の最後に見た少女の顔は、確かにアンだった。いや、夢とは言い切れない…妙な不快感がある。 だがその時、突如腹に激痛が走った。 「…っ!!」 声にならぬ叫びをあげベッドから転がり落ちた彼女は、一瞬にして青ざめた。 腹で、何かが蠢いている。 それは、徐々に大きさを増していくかのように腹の肉を波立たせ、身動きをする。 修道女は呻き、助けを求めながら部屋の扉にすがりつく。 扉は簡単に口を開け、彼女は廊下へ投げ出されるかのように外へ転がり出た。 すると 「開けろっ!!姿を見せろ!!」 「出て来い魔女!!」 それは、激しい打撃音とともに、教会の正面口から聞こえてくる。村人達の声だ。 何十にも重なる罵声が、彼女の恐怖心を駆り立てる。 「アン…!アン!!どこにいるの!アン!!」 ただ首を横に振り、後退りながらひたすらにその名を叫ぶ。 だがそのすぐ近くで、どこかの扉が破られる音が聞こえた。 途端、先程まで正面から聞こえていた罵声が、一斉に背後からのものにかき消される。 「いたぞ…!!」 「…見ろ!!なんだあの腹は!?」 「化物だ…!!」 「捕まえろ!!」 彼女の腹は、異常な早さで膨張を続け、中の『何か』が動きを止めることはない。 「私じゃない…私じゃないわ!!!」 修道女は叫び、激痛をも忘れて逃げ出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加