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主の帰還
「どう?思い出した?貴女はその後、煩い村人達の中を平然と歩き、そのまま部屋のベッドへ倒れこんだのよ。貴女はその数分の眠りから夢を見た。ほら…その額の傷…」
額の傷…
恐る恐る触れた震える指に、ざらりとした、嫌な感触が伝わる。同時に、初めてそこから痛みを感じた。
固まって変色したものから、汗で滲み出された赤が微かに彼女の指に残る。
「…血…私…血を見たわ……そう…教会で…」
途切れ途切れに吐き出した言葉は恐怖に震え、苦しみに満ちていた。
「そう…誰の血?」
見透かしたような瞳でじっと見つめる少女。そしてその口元が、
ゆっくりと、
彼女が逃げていた現実を、呼び起こした。
「貴女が神父様を殺したのよ」
「ち…違う…っ…私は…っ!」
「逃げても無駄よ。自分で言ったじゃない、逃げも隠れもしない…これは自分が決めた道よ」
神父様を、殺してしまった…。
一週間
彼女に憑いた凶悪な悪魔を祓おうと、彼は必死に働いた。
だが、数千もの下級悪魔を率いて誕生しようとする『それ』は、あまりに手強かった。
群がる悪魔達との激しい攻防から、ただ修道女の身を守る事しかできなかった…。
だが、
悪魔の力によって四人の生け贄が捧げられ…復活はもうすぐ間近に迫る。
生け贄は全部で六人。五人目に選ばれたのは
彼だった。
長年、魔の力を封じこめてきた彼が死ぬ事で、その凶悪な力が解き放たれるのだ。
そして今、
力を取り戻した主が、この地上に復活しようとしている…。
「哀れな末路よね…でも大丈夫。きっと彼の遺体は村人達が埋葬してくれる」
冷徹な少女の瞳に、哀れみなどあるはずがない。薄笑みを浮かべ、誕生の時を心待ちにしている。
これが…自分…?
修道女は、甦った記憶の全てを否定したかった。
だが、彼女の瞳には、彼の…赤く染まった冷たい亡骸しか映らない。
最後に彼が見せたのは…苦しみと、哀しみ。
彼は力のない声で、
最後に小さく呟いた。
『助けてやれなくてすまない…許してくれ…』
彼の瞳は
変貌した彼女を前に、ただ一粒、涙を流して光を失った─…。
修道女の瞳に、
彼と同じ涙が滲んだ。
何て事を…
実の親にさえ捨てられた自分を
あんなにも可愛がってくれていた恩人を…
殺めてしまった。
私は…
悪魔だ─。
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