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「グゥゥウ…ッ」
苦しそうに呻き鳴いたそれは、魔物にやられたのか硬い皮膚の至る所を引っ掻かれ、赤い肉と血がそこから引っ切り無しに流れている。
まして、雄々しく広がっていたはずの巨大な翼は穴だらけになり、ボロボロになっていた。
「まさか……ドラゴン?」
それを見たエレナが驚きの声を上げた。
赤色の翼と赤い鱗に覆われる絶滅したはずのドラゴンが彼らの目の前で苦しみ、藻掻いている。
それに向かって駆け、寄り添い魔法をかけようとしたエレナにドラゴンは身を捩り拒否をした。
「……天使か。久しいな。見るのは、数百年ぶりか」
「喋れるのですか?」
驚いたエレナにドラゴンは頷くも、再び呻き声を上げている。それにエレナは再びの魔法をかけようとするも、首を振られてしまった。
「いいのだ。俺にはもう先がない……。お前が治しても、俺は魔物に殺られ死ぬ。俺にはもう……時間などないのだ。世界は……俺を拒むほどに朽ち果ててしまった。後はもう、死を待つのみ」
「でも……っ」
「それだけ世界は悪化しているのだ。俺達は雲の上を飛び回り、魔物から逃れた。だが、休むのも必要だった。そのために、大地へと降り、その度に同胞を失った。もう……俺だけだ。俺は……此処で死を迎える。此処にはもう……俺達が休める場所はない。俺達が愛した世界は……死んだのだ。だから、生きる意味などない」
そう言い、静かに金色の目を閉じた。
「過ちから……世界は死ぬ。消えるのだ……全ての命が……。お前達には聞こえぬだろう。大地の叫びが……そこに住む動植物の悲鳴が……。それが俺には聞こえる。悲しい……ただ、悲しいのだ……」
彼にしか聞こえぬ叫びの中で、死に身を委ねていく。冷たくなっていく身体にエレナは悲しげに瞳を閉じた。
「貴方が聞いている叫び声を……世界を……救います」
ただ、誓う。
消えいく命にエレナは何度目かの誓いを立てるのだったーーーー。
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