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本当は。
僕は、クリスマスというものがどういうことで、サンタさんなんて僕達には存在しないことも、どうして僕達がプレゼントを貰えないのかも知っていたけれど、ちぃちゃんのそのやる気に満ち満ちた顔を見ていると、何となく言うのははばかられた。それはちぃちゃんのやる気を尊重してあげたいというよりは、ちぃちゃんのそんな表情をもっと見ていたいという、とても利己的な理由だった。
「あ、そっか。やっぱりしぃちゃん頭いいねー」
偉い偉いと、頭を撫でられる。同い年なのに一ヶ月歳上のちぃちゃんは、僕よりも背が高い。ほんの数センチ。その距離が数字以上に思えるのは、何でだろう。とか、また新たな不思議を認識したところで、ちぃちゃんが再び奮起した。
「よし! じゃあサンタを倒そう! わたし"たち"の敵はサンタだ!」
「わたしたち?」
「もちろん、しぃちゃんも一緒に行くんだよ! しぃちゃんは頭はいいけど運動はできないから、さんぼーたんとーね。わたしは……なんだろう。あんまり考えたりするのは苦手だから……」
「実戦担当?」
「そう! それ! わたしはじっせんたんとーね!」
「で、どうやってサンタを倒すの?」
「うーん……とりあえず頭突きしてみる」
「ちぃちゃんは頼りになるね」
「しぃちゃん頼りにしてるよ」
にぱっ。ちぃちゃんは笑う。僕は笑わなかった。でも、自然と拳を突き出していた。こつん、と。真っ白な雪に映し出された影の手が、重なる。
「でも……サンタってどこにいるんだろう?」
「それは――」
僕は少しだけ迷いながら「裏山じゃないかな。あそこなら、街も見渡せるし」そう言った。
「なるほどー。じゃあ今から行こう!」
「今から? こんな時間に外に出たら先生に怒られるよ」
「でも、明日になったらサンタがプレゼントを配り始めちゃうよ。その前に倒さないと」
「それもそっか。それなら、今から行こう」
「うん!」
そして僕達は歩きだす。
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