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裏山と言ってもたかが知れていて、小学校の遠足でも気軽に使われるくらいの標高と傾斜しかないその場所はしかし、この時期になるとその姿を豹変させる。雪。雪山である。北国程ではないにしろこの福井という土地は、日本海に面しているということもあって、結構な雪が積もる。中でも比較的山あいにあるこの街は、輪にかけてその傾向があった。一口に雪と言ってもその日の気候によって雪質は違うのだけれど、不幸なことにこの日はわた雪で、歩けば歩いたそばから足を取られた。子どもの足なら尚更だ。時には這って進まなければならないくらい。ちぃちゃんが言った通り運動のできない僕は、たぶん人一倍辛かったけれど、それでもちぃちゃんが「頑張れ」なんて、自分も辛いはずなのに言い続けてくるので、最後まで弱音は吐けなかった。
そして。
普段は一時間もあれば登れる裏山に、実に四倍もの時間を掛けて僕達はたどり着いた。
時刻は、23時57分。クリスマスの――ジャスト3分前。「間に合ったー!」と、ちぃちゃんがその場に仰向けに倒れたので、僕もそれに習った。実際、もう立っていられなかったし。四時間。その数値と冷たい積雪は、九歳という僕達の身体から確実に大切な何かを奪っていた。
「…………サンタ、いないね」
ちぃちゃんは言う。
「うん。でも、星は綺麗だよ」
いつの間にか雲は晴れ、夜空には満天の星屑が広がっていた。冬は空が低いらしいけど、なるほど、こうして裏山に登り、仰向けになってみるととても実感できた。
「うん、綺麗だね……本当に、綺麗だ」
息が遠い。心臓の音がゆっくりと流れていく。僕はポケットに手を入れ、ある物を取り出した。
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