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「そうすると、この場合、A-B=(x-X)+(y-Y)iを、原点を中心にθ°回転させて、最後にもとの位置に戻せばいいわけだから、まずはA-Bを極形式に変換して……」
もはや廣幸の呟きは完全に自分だけの世界のものになっており、周りで聞いている人間がいるとすれば、その人間の頭の中が疑問符でいっぱいになってしまうことだろう。
それでも廣幸の呟きはとまらない。
そうやって廣幸はああでもないこうでもないと頭の中で複雑な数式を解きながら、ひたすら呟く。
こんなことは、さっきまでのような騒がしい状況の中ではとてもできることではない。
そして、しばらく考えてから、廣幸は、「解けた!!」と言って両手を打った。
ずいぶん熱中していたので、どれくらいの時間がたったのかはわからないが、ずいぶん長い時間が経っているに違いないだろうと廣幸は思った。
もしかしたら、他の四人はすでに風呂から出てしまったかもしれない、廣幸はそう思い、耳を澄ましてみる。
すると、廣幸が数学に没頭する前と変わらない、誉のはしゃぐ声と、空人がクリオをからかう声とそれに抵抗するクリオの声、そしてそれらを聞いて笑う一樹の声が聞こえてくる。
どうやら、他の四人もまだ風呂からは出ていないようだった。
廣幸はもう十分に数学の世界を堪能していたし、このままここに居続けるのも感じが悪いだろうと思い、四人の所に戻ることにした。
そして、思考によって少し疲れてしまった頭を癒すように、もう一度、十分に身体を伸ばし、何度か肩を叩いてから、湯船を出た。
相変わらず辺りには濃霧のように湯けむりが立ち込めている。
しかし、湯船から出たところで、廣幸は地面に何かが転がっているのに気が付いた。
それは、何かの塊のように見える。
廣幸は恐る恐るゆっくりとその物体に近づいた。
そして、その物体が目に入った瞬間、廣幸は、「ぎゃーーーーーーーーー!!」と物凄い叫び声をあげて、腰を抜かして、その場に座り込んだ。
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