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だが、廣幸は待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「いいですか、空人さん。俺はさっき言いましたよね。『湯船に入る前に体にお湯をかけた』と。ここに歩いてくるまでの間に、少し体が冷えてしまったので、俺は何度かお湯をかけたんです。俺がお湯をかけたのはその辺りです」
廣幸はそう言って、自分が体にお湯をかけた辺りを指さした。
それから、「いいですか? 見ていてください」というと、実際にその位置まで移動し、桶を手に取って、二、三度体にお湯をかけた。
廣幸の体にかけられたお湯は、彼の体から落ちると、一つの流れとなった。
そして、その流れはゆっくりと男の死体の方へと向かう。
「こういうことですよ」
廣幸は言った。
「どういうことだ?」
クリオが首を傾げる。
「そういうことだね」
空人が頷く。
そして、誉と一樹もホッとしたような表情を浮かべた。
ただ一人、クリオだけは事態が理解できていない様子で、「ちょっと待ってくれよ!! どういうことなのか説明してくれよ!! 全然わかんねぇ!!」と慌てふためいている。
そんなクリオの様子を見て、空人は少し呆れた様子で言った。
「簡単なことだよ、クリオくん。お湯は温かいから雪を解かすだろう? 要するに、もともとこの男の死体は雪の中に隠されていたけれど、廣幸くんが湯船に入る前に体にかけたお湯で雪が解かされて死体が現れたというわけだよ。だから、廣幸くんも、湯船から出るまでこの死体に気が付かなかったということだよ」
空人の説明に、クリオは「おお、そういうことか!!」と手を打った。
その様子を見て、ようやく誉と一樹、そして廣幸からも笑みがこぼれる。
しかし、廣幸だけはすぐに笑みをその顔から消し、真剣な表情に戻る。
「だとしたら、この男を殺したのは一体誰なんだろう?」
廣幸はそう言うと、何かを考えるように、目を閉じた。
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