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しばらく五人の間に沈黙が流れた。
そして、その沈黙を破るように、クリオが「もう、これ以上は俺たちではどうにもできないだろう!! とにかく、旅館の人に知らせて警察を呼んでもらおう!!」と言い出した。
誉も廣幸も一樹も、ウンウンと力強く何度も頷く。
だが、空人だけは、ピクリとも動かない。
「空人さん、どうしたんですか?」
空人の様子に気づいた一樹が言った。
すると、空人は突然高らかに笑い出し、ひとしきり笑いきると、「クリオくん、悪いけど、その桶でお湯をいっぱい汲んできてくれないかな?」と言って、さきほど廣幸が使ったばかりの桶を指さした。
クリオは何が何だかわからず、とりあえず空人に指示された通りに、桶を持ち、湯船からたっぷりとお湯を汲んで、それを空人に渡した。
空人は、「ありがとう」と言って、桶を受け取ると、フンフンと鼻歌を歌いながら、男の死体に近づき、それからいきなり、桶の中の湯を男に向かってぶちまけた。
「ちょっっっ!! 何してるんだよっっっ!!」
クリオが慌てて空人にかけよる。
「空人さん、気でも狂ったんですか?」
廣幸も空人に詰め寄ろうとする。
そのとき、突然、男の死体がむくりとその上半身を起こした。
「ぎゃーーーーーーーーーー!!」
誉と一樹は再び悲鳴を上げて抱き合い、廣幸はその場に腰を抜かす。
そして、空人に駆け寄ろうとしていたクリオは驚きのあまり、悲鳴を上げる間もなく転倒する。
空人はそんな様子を見ながらニヤリと笑うと、起き上がったばかりの男に向かって声をかけた。
「こんなところで眠っていては風邪をひいてしまいますよ」
その言葉に、男は、「ああ、すまないねえ、兄ちゃん。酔っぱらって、すっかり眠っちまったよ。すっかり体が冷え切っちまったな……。少し湯につかって温まってから部屋に戻ることとするよ」と言って立ち上がり、湯船に勢いよくつかった。
空人以外の四人は、ただ茫然とその様子を見ていた。
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