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今年の冬は例年の冬に比べてひどく寒波が厳しく、普段は雪の降らないような比較的温かい地方の平野部にまで雪が降っている。
まして、山間部ともなれば、例年にないほどの大雪で、山々は真っ白に染まり、道路の両脇には除雪された雪が山のように積もっている。
中国地方の山間部にあるY温泉においてもそれは他所と変わらない状況であり、温泉街は白く染め上げられ、道路の脇に連なる土産物屋や遊技場の屋根にも、50センチメートルを超える雪が積もっている。
その寒さのあまり、道行く人の吐く息は、まるで吐き出したその瞬間に凍り付いてしまうのではないだろうかと思えるほど白い。
しかし、その一方で、街のあちこちから立ち上る白い湯気は、ここが温泉地であることを十分に示していたし、一種の温かさのようなものをもたらしている。
もっとも、湯気が立ち上るのを見ているだけでは決して温かくはならないのであるが、冷え切った身体を温泉の温かい湯に浸ければ、芯から温まるに違いない。
Y温泉の湯は低張性アルカリ高温泉で、どちらかというと熱めのお湯が湧き出している。
そのせいで、そこから立ち上る湯気も、よりいっそう白さを増しているというわけだ。
決して旅館数の多い温泉地ではないが、古く歴史のある温泉地であり、老舗の旅館が並んでいる。
もちろん、各旅館ともに内風呂をもっているし、ほとんどの旅館には露天風呂が備え付けられている。
雪を眺めながらのんびりと温泉につかり、体を温める一方で、首から上は冷たい風に吹きさらされるため、どんなに長い時間温泉につかっていても、のぼせて倒れてしまうようなことはない。
日本酒の徳利でも片手に、雪見酒と決め込めば最高の贅沢であるに違いない。
黒崎クリオと濱口空人がY温泉についたのは二時間前の午後三時のことだった。
本当であれば昼過ぎには到着する予定だったのであるが、大雪のせいで交通機関が麻痺していたために大幅に遅れてしまったのだ。
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