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クリオと空人はロビーで受け付けを済ませ、仲居の案内で部屋に着くと、抱えてきたバッグを部屋の隅に降ろし、早々に浴衣に着替えると、落ち着く間もなく露天風呂に飛び込んだ。
それからかれこれ二時間近くの間、二人は温泉につかっている。
いくら首から上が冷たい風に吹きさらされているとはいえ、二時間も温かいお湯に浸かっていれば、さすがに多少はのぼせてくるというものだ。
クリオは一度完全にお湯から抜け出し、雪景色を背景にその長身を一度大きく伸ばしてから、艶やかな黒髪を右手でフワリと掻き上げた。
適度に筋肉のついた黒崎の均整のとれた身体は、真っ白な背景に描かれた男性の裸像のように見えるほど芸術性を帯びて感じられる。
クリオは火照った身体をそうして少し冷ましてから、風呂の縁に腰を下ろし、膝から下だけを湯の中に浸けた。
「そんなに長い時間お湯に浸かっているのに、空人はよくのぼせないね」
どっぷりと肩までお湯に浸かる空人を見下ろすような格好でクリオが言った。
「クリオくん、実はね、すでにボクはのぼせているんだ」
「は?」
空人の言葉で、クリオの頭の中には無数の疑問符が並ぶ。
しかし、空人の顔を見てみると、確かに茹で上がったタコのように真っ赤な顔をしている。
それでも空人はにこやかな顔をしている。
「もしかして、ちょっとヤバかったりする?」
クリオが尋ねると、空人は「かなりヤバいかも」と言って笑った。
「ちょっと待ってよ、空人。ぶっ倒れたりしないでくれよな」
「倒れる寸前かも。もしも倒れたら、クリオくん、ちゃんと人工呼吸してね」
空人はそう言うと、フッと目を閉じた。
それと同時に、空人の両手が浮力によって力なく水面に浮かんでくる。
「ちょっっっ!! 空人っっ!?」
慌ててクリオが声をかけるが、空人は反応しない。
ただ、目を閉じた小柄な身体の空人が裸のままで力なく湯に浮かんでいるだけだ。
クリオは慌てて空人を抱え上げると、湯船の傍に空人の身体を横たわらせた。
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