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四人がそんな他愛もない会話を交わす中、ただ一人、廣幸だけはどこか冷めた目でその様子を眺めている。
彼は本来的にガヤガヤと騒がしいのが得意ではないのだ。
しかし、そんな廣幸の様子に気づいているのか気づいていないのか、四人は楽しそうにはしゃいだ。
誉は水をバシャバシャと叩きながらケラケラと笑い、空人は相変わらずクリオをからかって遊ぶ。
そして、クリオはそんな空人のからかいに必死に抵抗し、その様子を見ながら一樹が可笑しそうに笑う。
もはや、そこは一種の無法地帯と化していた。
だが、廣幸にとって、それは決して心地の良いものではなかった。
廣幸は出来ることであれば、静かにゆっくりと雪景色を眺めながら風呂に浸かっていたかった。
だけど、少なくともその場に居座る限り、それは叶いそうもなかった。
廣幸はおもむろに立ち上がると、湯船から出た。
「廣幸くん、どうしたの?」
空人が声をかける。
それに続いて誉も、「廣幸、どうした?」と声をかける。
廣幸は相変わらずの冷めた目で四人を見下ろしながら、「なんでもないよ。ちょっとゆっくりお湯に浸かりたいから、あっちの方に行ってくる」と言って、風呂の奥の方を指した。
寒さが増しているのか、湯船から立ち上る湯気は白さを増しており、廣幸の指した方は湯気で視界が悪く、四人がいる場所からははっきりと見ることができない。
空人は一度奥の方に向けた視線を廣幸の方に戻すと、「ごめんね、騒がしかったかな?」と謝る。
「大丈夫ですよ。みんなはここで楽しんでいてください」
廣幸はそう言うと、四人に背を向けて、風呂の奥の方へと歩み出した。
そして、すぐに廣幸の姿は、真っ白な湯気の中へと消えていった。
残された四人の間に、少し白けたムードが流れる。
しかし、すぐに誉が、「あははは」とから笑いをして、その雰囲気を吹き飛ばそうとする。
その様子が何だか可笑しくて、空人もクリオも一樹も吹き出した。
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