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「あ――――」
見上げると、薄暗くなった鉛色の空から白い物が舞い降りてきた。
眼下を歩く人達は、その聖夜の奇跡に歓声を上げる。
年に一度のクリスマス。
それがホワイトクリスマスともなれば、その小さな奇跡は恋人達の心に長い間残るからだろうか。
だけれど、私にはそんなこと関係なかった。
雨だろうと雪だろうとなんだろうと、依頼は成功させなくてはならない。
思い思いに歓声を上げる人達を尻目に、私は既に冷え切った鉄筋コンクリートの屋上に腹這いになり、ライフルを構える。
冬の冷たさはすぐに服を越え、私の身体を蝕むように芯から冷やす。
それでも私は凍える手を強引に動かし、正面に見えるガラス張りのビルの中ほどに照準を合わせた。
呼吸で僅かに揺れるスコープの小さな視界の中、広間にいるターゲットの男は簡単に見つかった。
まだ時間には余裕がある。
それを持て余し、私は少しだけ、取り留めのない思考の渦の中に飛び込むことにした――――。
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