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気がつくと もう午後10時になろうとしていた。
やばい…。
つい夢中で 時間を忘れてた。
紗那に…、じゃなくギターを教えるのに…だ。
俺は指がつりそうなくらいに 必死で弦を押さえる紗那に言った。
『今日はもう遅いから、送っていくよ。』
紗那は手を止め 俺を見た。
そしてギターを俺に差し出すと ゆっくりと立ち上がった。
『…次、いつだったらいい?』
『明日と明後日は俺、バイト深夜だから、土曜の夜なら いいよ。』
『うん。』
そして紗那は玄関でパンプスを履いて俺に背を向けたまま小さく『ありがと。』と言った。
『送るよ。』
スニーカーを履こうとした俺に紗那は『ひとりで帰る。』と言ってそのまま部屋を出ていった。
俺は追いかけようかと思ったが、やめた。
いいって言ってんだから、いいんだよ。
だけど、見たかったな…。
紗那が『ありがと。』って言った顔。
俺は紗那が消えていったドアを見ながら、しばらくの間ぼんやりと突っ立っていた。
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