第7楽章

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「え?あの…え…?」 「…しばらく、このままでいろよ?」 陽一はそれだけ言うと、もう何かを話す気がないのか、私の肩に顔を伏せてしまった。 ……たった、それだけ? なんだか今までされてきたことを思うと、全然軽い気がするんだけど…? ただ、抱きしめられている。 ――ただ、それだけ。 耳に聞こえるのは、私たちの呼吸音と、時計の秒針の微かな音だけ。 どのくらい時間が経ったかなんてわからない、けど…。 流れる空気は、抱きしめられる身体は、ほのかに温かくて。 (まるで…あの頃に還ったみたい、だな……) …この空気が、懐かしくて。 戻らない時間が、もどかしくて。 私も、陽一の胸に顔を伏せた。
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