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「…あ」
その時たまたま柚季の右腕に切り傷みたいなものを見つけた。
痂(かさぶた)にはまだなってなく、少し赤みを帯びている。
どうやらその傷は出来たばかりのようだ。
「柚季、そこ怪我し…」
右腕に触れようと手を伸ばす。
「だ、大丈夫だから…っ!」
「!」
柚季に手を弾かれた。
左手で傷の部分を隠し、俺から一歩退く。
あまりにもはっきりとした拒絶に、一瞬頭が真っ白になる。
「……あっ、その…」
自分がしたことに気付いた柚季は泣きそうな顔で俺を見た。
「……ごめん、なさい…」
「…俺こそごめん」
冷静になって考えてみると、俺は怪我をしている腕に触れようとしたんだ。
…そんなの拒んで当然に決まってる。
立場が逆だったとしても、俺だってきっと拒んでいたに違いない。
「…ううん」
二人の間に気まずい空気が流れる。
先に口を開いたのは柚季だった。
「…教室、行こう?」
「…そうだな」
俺たちはお互い無言のまま、教室へと歩いていった。
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