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「…………」
教室の皆は佐原を白い目で見ていた。
…まぁそれはそうだろうな。これだけ大声で話していたら意識して聞いていなくても自然と耳に入ってくるというものだ。
「…はっ! せ、瀬川さんこれは違うんだ! 俺が一人で喋ってたとかそれは誤解なんだ! …というか椎名のせいなんだ!」
床にうずくまっていた佐原は顔を上げると柚季に向かって言い訳し始めた。
…そして何故か俺のせいになっている。
「…え? な、なに? ごめんなさい、ぼうっとしていて…」
「!!」
よく漫画やアニメなどで見かける、その人に衝撃が走った瞬間後ろに現れる雷。
確か…効果音は“ピシャーン”だったと思う。
それが今まさに佐原にも現れていた。
「…………俺」
佐原はゆらりと幽霊のように立ち上がると、泣いているのかそれとも泣くのを我慢しているのか、涙声でこう言った。
「チャンプ買ってくる…っ!!!」
ぽかんと口を開ける。
「チャンプって週間少年チャンプ…?」
「あぁそうだ!!」
…………。
なんで今この場でそれが欲しくなったんだ佐原。
「…って佐原!? もうすぐ授業始ま」
「俺は鳥になるんだぁあああぁああぁあアイ キャン フラーーイ!!!」
静止も聞かず、佐原は廊下へ飛び出していってしまった。
「………鳥?」
「翔、察してやれよ」
いつからそこにいたのか、自分の席に戻ったはず…いや訂正。逃げたはずの佐伯が俺の隣に立っていた。
「あれは佐原なりの精一杯の強がりなんだ…」
「強がり……?」
佐原 洋平。
俺の彼への認識がまた一つ、強まった。
「…やっぱり佐原って不思議だな」
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