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授業終了を告げる鐘が鳴り響く。
それと同時に俺は席を立つと、窓際の一番後ろの席まで歩いていった。
「柚季」
校庭を眺めていた柚季はゆっくりと俺に振り向く。
「なぁに? 翔くん」
「…この手紙に見覚えは?」
紙を見せると、柚季は隠すこともなく堂々と答えた。
「うん、あるよ? だってそれ、私が書いたものだもの」
“それがどうかした?”とでも言うような柚季の態度に、妙な違和感を感じた。
「…そんな怖い顔しないでよ、翔くん」
柚季は静かに俺の手を握る。
「翔くんは岩田さんのこと気になってるんだよね? なら…」
ぎゅっと手に力が込められる。
「…違う、柚季。俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ」
「え?」
握られた手をそっと解く。
「なんで授業中にこんな紙を回して人を試すようなことしたんだ?」
「…………」
「俺はそれが聞きたかったんだ」
柚季は下を向き、黙ってしまう。
「…なぁなぁ。岩田の奴さ、出て行ったっきりで戻ってこなかったな」
「授業どころじゃないんじゃね? なんか顔色悪かったっぽいし」
「いつもの岩田さんって感じじゃなかったね?」
「ね。どうしたんだろう…」
クラスメイトたちがひそひそと小声で、岩田のことをあぁでもないこうでもないと話すのが聞こえてきた。
「……っ」
教室を出て行く前の、あの今にも泣きそうな岩田の顔が頭から離れない。
“行っちゃ駄目だよ翔くん”。そう言って俺を引き止めた柚季。
…これでは柚季との約束を破ってしまうことになる。だけど…岩田は友達なんだ。
あんな状態の岩田を放っておくことなんて、俺には出来ない…!
「柚季、俺は…っ!」
当然反対されると思っていた俺は、次の瞬間。思いもしなかった柚季の一言に面喰らった。
「手分けして捜そう、翔くん」
顔を上げた柚季の目には涙が涙が浮かんでいた。
「…翔くん。あのね、私もずっと気になってたの。岩田さんのこと…」
眉を下げ、岩田を心配する柚季の姿に俺は疑問を抱いた。
なら、どうしてあの時俺を引き止めたんだ…?
「……翔くん?」
名前を呼ばれ、ハッとする。
「あ、あぁ…」
…今は岩田を捜すことが最優先だ。
それ以外のことは岩田を見つけてから考えることにしよう。
「…柚季、一緒に捜してくれるか?」
「うん、勿論」
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