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それから俺は柚季を待つ側になることを諦めた。
柚季が何時に来ているかは知らない。だけどきっと、俺は柚季を越えることは出来ない。
何故かそう直感的に感じた。
「…ん?」
歩いている途中、じっとどこかを見つめている女の子を見つけた。
女の子の視線の先を追ってみると、どうやら田んぼ近くにある泥の池を見ているようだった。
こんな朝早くからなんでそんなところを見ているのか不思議に思っていると、俺はあることに気付いた。
「! あれは…」
遠目で分かり難いが…あの群青色のセーラー服は間違いない。うちの学校、譚苑高校女子生徒の制服だ。
もしかしたら知っている友達かもしれないと顔を確認しようするも、残念なことに俺の位置からではちょうど顔が見えなかった。
「…………」
俺は敢えて声を掛けることはしないで、暫く観察することにした。
「!」
すると突然、女の子は泥の池に何かを投げ捨てた。
もう用は済んだのか、女の子は走って奥の雑木林へと消えていった。
「……なんだったんだ、今の」
一見するとただのポイ捨てにしか見えない。
けれど俺には何故かそうは見えなかった。
気になった俺は、投げられた位置まで行ってみる。
「………うーん」
目の前の濁った池を見つめるものの、それらしきものはなかった。
…沈んでしまったのか。
興味があった俺は肩を下げ、がっかりした。
いつの間にか時刻は七時三十分になっていた。
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