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アプロディテ(愛と美の女神)の祭がやがて近付いてまいりました。
――キュプロスの島では、これはこの上もなく豪奢に取り行われました。
生贄が捧げられました。
祭壇には煙が立ちこめました。
空は香の匂でいっぱいに満ちました。
ピュグマリオンは厳かに勤めを果してしまうと、祭壇の前に進んでおそるおそる申しました。
『何事をもなさせたもう我が神よ。どうぞ私の妻として』――『象牙の処女を下さい』とはさすがにいえませんでしたから、その代りにピュグマリオンはこう申しました。
オトメ
――『私の象牙の処女のような女を下さい』
お祭にのぞんでいたアプロディテは、その言葉を聞いて、ピュグマリオンの心の底を悟りました。
それで願いを聞き届けたしるしとして、祭壇の上の焔を三度、火の玉にして空にはね上がらせました。
ピュグマリオンは家に帰ると、さっそく彫像のそばへ行って、寝椅子によりかかりながら、その口に接吻いたしました。
すると像の口が暖かいような気がしました。
ピュグマリオンはもう一度唇を押しあてて、その手足をかき抱きました。
象牙の像は触れると柔らかく感じられました。
指で押すと、ヒメトスの山の蝋のように凹みました。
ピュグマリオンは不審に打たれながらも、驚いたり、悦んだり、またこれは何かの間違いではないかと、心配したりして立っていりあいだにも、恋人の熱情をもって触れたいものごとに幾度も触れてみました。
彫像は全く生きていました。
指でおしつけると血管の手ごたえがって、離すとまた血管は円くなりました。
この時やっとアプロディテの信者は、女神にお礼を申すことに気がつきました。
そうして自分と同じく生あるものとなった処女の唇にその唇を押し当てました。
オトメ
処女は接吻されると顔を赤くして、おどおどした眼を明るみに見開きながら、じっと恋人なるピュグマリオンを見つめました。
アプロディテは自分の組合せたこの結婚を祝福いたしました。
やがてこの夫婦のあいだにパポスという子供も生まれ、幸せに暮らしました。
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