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彼が保健室の一角を陣取っているのは、怪我や病等の類いではない。
いじめ…という訳でもない。
ただ単に教室に居ても居場所が無いのだ。
だから、生徒なら誰にでも優しい――所謂〝保健室の先生〟を半ば強引に押し切って、半年程前からこの保健室を借りているのだ。
開け放った窓から風が舞い込んだ。
薄黄緑のカーテンが揺れ、春の陽気に染まる運動場がちらりと見える。
――チャイムが鳴った。
ケータイを折り畳みポケットにしまう。
チャイムの余韻が止む頃に、保健室の外で雑踏が広がるのを感じた。
階段を降りる足音。
生徒達の話し声。
その中にドタドタと慌ただしく駆ける音が聞こえた。
次第に大きくなっていく。
ギコの溜め息と保健室の扉が開け放たれるのは、ほぼ同時であった。
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