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次の日、須藤は懲りずに私に話しかけた。
「おはよ、暑くないの?そういえば本郷さんって一年中長袖だよね?どうして?」
「あなたには…関係無いことよ…」
須藤はこの長袖の意味も、私の趣味や性格も分からない。
なのに、何故話しかける…
人の素性なんて誰にも分からないのに。
本当に悪い人間はいない。
そして…
本当に善い人間もいない…
誰もが隠すべき何かがあり、誰もが心の先に自分だけの何かがあるのだ。
なのに何故…
何故、誰とも分け隔て無く話せる…
何故、何も知らないのに私に話しかける…
私は机の下で拳を握りしめた。
「本郷さん、悩みとかあったらいつでも俺にいいなよ?俺ならきっと君の力になれると思うんだ」
今日の須藤は真剣な面もちだった。
いつもの笑顔は無い…
本当に私を1人の人間として見ていた。
「それは無理よ…あなたは私の力にはなれない…」
「どうして?まだ何も聞いて無いじゃないか、話してみてよ?」
「きっと、私と話したら…あなたの楽しい人生、崩れ落ちちゃうわよ…?」
「それでもいいよ、俺に何を言っても、俺の人生は変わらない。逆にまた楽しさが増すさ、だって本郷さんのことをまた一つ知れるんだからね?」
うるさい…
「だから本郷さん、俺になんだって話してよ」
うるさいうるさい…
「そうしたら本郷さんもきっと」
「うるさい!あなたに私は解らない!私のことなんか解らないわよ!!」
思わず私は立ち上がった。
周りからは微かに笑い声が聞こえた。須藤は悲しそうに俯いていた。
拳を強く握りしめたためか、手首の傷口が開き、血が溢れ出した。
私は手首を押さえ、駆け出した。
場所はどこだっていい。
ただこのけだまりから離れたかった
少しでも遠く…
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