隙間を見つける姿勢

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*** 「なぁ、しげ。お前さんはこのチーム、どう思ってるんだ。」 六勤一休の今キャンプで、最初の休みを前に、俺は監督室に呼び出された。 「なんですか、いきなり。」 実際は理由はなんとなくわかっている。俺はかつて戦力外からこのファルコンズに入ったが、それ以前に所属していた球団でも本間さんが監督だった時期があった。当時から、本間監督は武闘派監督として有名であり、俺もよくやられた。(本間監督曰わく靴で撫でただけだそうだ。) しかし世間では思われていないだろうが、当時から本間監督は結構選手の意見を重宝する監督でもある。その俺の前球団時代もベテランや主力メンバーからの意見を自ら聞き回っていたものだ。 このファルコンズにおいても、そのスタイルは続行中ということだろう。 「ワシはこのファルコンズには足りないものが多いと思う。安定したローテの3、4番手。四番が勝負してもらえる、五番打者。最低限ここがないと、優勝争いに加わるのも一苦労だ。」 「戦力ならそうだと思います。」 「つまり、戦力面以外にも課題があると見とるんやな。」 「若い選手たちの活気というか、やんちゃさですかね。ウチのは優等生みたいなおとなしいのが多い。良くも悪くも、ウチはレギュラー掴むチャンスは多いのに、おいおいと指揮させる通りにしか動かない。それで、上手くいかず、ケガしたり、調子を崩したりで、勢いに乗ってガンガン行く奴もいないですかね。」 「ほぉ、なるほどな。つまり、貪欲な姿勢や、もう少し自分を貫く姿勢が足りんっちゅうわけやな。」 本間監督はメモを取り出す。こういう細かい姿勢は、歳を取っても変わらないのだな。素直に尊敬できる部分だ。 「ほな、先言っとくわ。しげ、お前も今年四番貼れると思っとったら、間違いやからな。なにせ、今からファルコンズのテーマはハングリー精神やからな。うかうかしとると、お前さんなんかあっという間にベンチウォーマーだぞ。」 まったく、この爺さん、相変わらずである。
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