隙間を見つける姿勢

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・・・ふぅ。 自然と空気が重く感じる監督室を離れ、無心のままグランドに向かった通路を進む。 監督室を出た後、山口さんには「プロの一軍って、やっぱり風格ってやつから違うのな。一軍初なのって、俺とお前だけじゃん、あの6人の中で。頑張って残ろうな。」と声をかけてもらった。 とはいえ、山口さんは学生野球時代から、特に大学時代はスター選手であったためか、肝が据わってる感じを受けた。正直、俺には周りに声かけようとかって余裕は・・・ 「よう、東雲!初昇格おめでとう!」 突如、俺の背中が叩かれ、声のする背後に目を移すと、高卒で同期の柳本がいた。 「ありがとう、柳本。これで少しは追いついたかな。」 「馬鹿言えって。まだプロとしての実績がないやつが、どこをどう追いついたって言うんだよ!」 柳本はプロ一年目の一昨年に、シーズン最終戦でプロ初登板、初先発を決めている。そして、去年はシーズン前半の6月までに5勝を挙げている俺たちの年のドラ1の投手である。個人的な因縁としても、高校時代に俺はコイツに負かされた記憶がいくつもある。 「どうだかな。俺が今年新人王取ったら、去年を新人王逃したお前を抜いたことになるんじゃないのかな?」 「お、言うねー!じゃあ、代わりに新人王取ってきてくれよな。俺も去年の失敗を生かして、いっちょ最多勝でも目指してみるわ。」 コイツは高校時代から、常に上を見据えている。まさに向上心の塊だ。同学年だけど、とても尊敬できる。俺もまずは開幕一軍を狙おう。柳本のおかげで、前向きにそう思える気分になった。
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