隙間を見つける姿勢

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今日は球が重く感じたな。 特に意味はないが、バットを握っていた両方の掌を見る。打撃の調子は良くも悪くもなくという感じだった。 強いて言えば、身体の使い方が・・・ 「硬かったな、動きが。」 「えっ?」 自分の思考と同じことが不意に言葉として現れたことで、俺は思わず驚きの声が漏れた。 「さっきのお前のバッティングを見て思ったんだが、違ったか?」 「い、いえ、その通りです。」 まさか石原さんから声をかけてもらえるとは思ってもみなかった。こうして目の前にすると、やはり風格というものが違うと感じさせられる。なんというか、雰囲気に厚みがあるというか、重みがある。 「お前、今日上がってきたんだよな?名前は?」 そんなことを考えていると、石原さんは俺に質問を投げかけてきた。 「東雲風希です。」 出来るだけ゛普通゛を装い、返事を返す。だって、せっかくの機会をただ緊張してしまいました、で終えてしまってはもったいないではないか。 「よっしゃ、東雲。お前はどういうバッターだ?」 俺のバッティングスタイル? 俺は親指と人差し指の側面で、顎を支え、考える姿勢を作る。 俺は今まで、体格の割に打球が飛ばないと言われてきた。しかし、高校通算ではそれなりに本塁打も放ってきている。恐らくそう言われてきた理由も分かっているのだが。 少し間をおいて 「・・・今までは、内野手の頭を超えるライナー性の打球を狙うことが多かったです。」 俺はごちゃごちゃとした背景というものを抜きにして、ストレートに今までのことを言葉にした。 その俺の答えに対して、石原さんは一呼吸おき、再び投げかけてきた。 「じゃあ、どういうバッターになりたいんだ?」
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