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ここまで話したところで、ハッと思った。
年甲斐もなく、ウキウキとして喋ってしまったなと。やれやれ、背中で語るだとか、そういうのがワシは好きなんだがな。
赤西もまた、この爺さんは元気だなとでも思っているのだろうか。
ここまで話したのだから、ついでだ。
ワシは手を後ろの腰のところで組んだ。そして、地面に向いていた視線を赤西の方に戻す。
「なあ、知ってるか?赤西。」
「何がですか?」
この不意に飛んできた脈絡の読めない質問に対し、赤西は反射的に疑問で返した。
「因縁の対決、ってのは他よりずっと盛り上がるもんだ。グラウンドで待ってるぞ。早く監督になれ。」
ワシはストレートな言葉をぶつける。
赤西はとっても真面目で、野球に対して常に真摯に、且つ情熱的にあたっていた。そんなやつを球界はほっとくべきではない。世間はワシのことを闘将と呼ぶ。まだまだ爽やかさは健在であるこのスーツ姿の男は、ワシ相手として相応しい男なのである。はやく、そんなスーツなんて捨てて、再びユニフォームを身にまとえ!そういうことだ。
「因縁の対決なら、尾形監督や大内監督もいらっしゃるじゃないですか。」
赤西がしらばっくれたことを言う。恐らくこの返答は、コイツの生真面目さ故に、まずは評論家としての道を真っ直ぐ進むということを選んでいるからであろう。
「それまで現場で居続けるぞ、ワシは。」
だが、ワシも引くつもりはなかった。
何時までも待ってやる。本気でそんな気持ちであった。
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