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それから本当にちょっと経って、ある一軒家の前で車は止まった。
だいぶ前に雨は止んでたから、ぬかるみにはまらないように足元に気を付けながら俺は外に出た。
が、貴隆は見事にはまったらしい。ベチョッという音がした。
「…ここ?」
「ここ。」
車を降りて、髪型を直しながら母さんは言った。
「…結構ちゃんとしてるのな」
つま先立ちで歩いてくると、貴隆は俺の耳元でこっそり呟いた。
「同感」
俺もそれに頷く。
山奥にあると聞いていたから、よっぽどひどいボロ屋敷だとばかり思っていたが。
案外普通の家だった。
少し色褪せた赤褐色の瓦がきちんと屋根に並べられている。緑の蔦が少しだけ這っているものの、まぁまぁ壁もきれいに見える。
だが、肝心の祖父ちゃんの姿が見当たらない。
家の中かと思ったが、そこからは物音一つ聞こえず、人の気配は感じられない。
「…祖父ちゃんは?」
「うーん…」
母さんはキョロキョロと辺りを見回すと、1人だけ納得したように頷いた。
「出かけてるみたいね」
「……」
俺と貴隆は顔を見合わせた。
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