なんっ…!

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じいさんが、笑い混じりの声で茶化すように言った。 「『あ、やっちゃったー』っつって、足踏み外して落ちるんじゃないぞい」 「いや、しないから」 たぶん。 「…気を付けます」 真面目な、しかし少し震えた声で貴隆は言った。ゴクンと唾を呑み込む音がでかい。 …こいつ、高所恐怖症じゃないはずなんだけど。 「好き嫌いあるか?」 「は?」 なんの前触れもなくじいさんは言った。 なんか、いろいろいきなりすぎる。 「食いもんじゃ、食いもん。」 「あー」 どうだったかな。 「俺は…らっきょう、だけ。」 「そっちのは」 「ムニエルです。」 俺は少し考えたけど、貴隆は即答した。 「そうか。」 「なぁ、じいさん」 ミシミシ音をたてながら下に降りていくじいさんに、俺は聞いた。 「さっきから『お前』としか俺らのこと呼んでねぇけど…ちゃんと覚えてんのか、俺らの名前」 「ん?」 じいさんは首をかしげた。 全っ然かわいくないが。 「そんなもんとっくに覚えとるわ」 「ふーん」 「『たまき』と『きゆう』、じゃろ?」 「……」 覚えてねーじゃねーか! 「なんじゃ、違うんか」 「違う!」 「どこがじゃ」 「俺は『き』以外、もう一方は『ゆ』だけ違う!」 「じゃあ『かつき』と『きしゅう』か」 「……」 「なんじゃ違うんかい。…じゃあ『なるき』と『ききゅう』か?…フゥ、けったいな名前じゃのう。」 …… なんかこの人もどっかずれてるよなぁ。 …これからの生活、マジで大丈夫かよ?
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