涙の記憶

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ー今から7年前ー 『探せ!! 確かに秘宝はこの場所にあるはずだ!』 あるかどうか分からない財宝をそいつらは探していた。 『エミリオ=ヘリオスの隠し財産が眠っている。』 謎の言葉に踊らされ、当時の柚子裏(ゆずり)市は酷い戦場となった。 超能力同士の戦いに一般人すら巻き込まれ、わずかに死傷者も出たらしい。 戦いはひと月ほど続き、争いはその後収束に向かう。 とあるひとつの犠牲を残して。 『…すまない。』 争いの現場で、苦渋に満ちた男の声を少女は聞いていた。 傷だらけの少女を抱いた、二十歳ぐらいの若い男。 『…ここも危ない…さぁ、行こう…理沙(りさ)。』 男は少女を抱いて、どこかに歩き出していた。 この少女がこれから背負う理不尽かつ残酷な運命を、少しでも安らげるために。 少女の父親はこの柚子裏市の大企業の社長だった。 超能力が世間に認知されない以上、この責任を被るのは被害の規模からして、おそらくこの会社の社長だ。 社長は普通の人間だから、この争いには全く関係無い。 だが、責任の所在うんぬんで彼女の一家は相当叩かれる。 『全く…酷い話だ。』 重々しく呟く男。 それから、少女は男のもとで育てられることになる。
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