柚子裏市の『桃太郎』

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ラッピングされたゴミを手にしながら、一人の少女が少年に引っ立てられてゆく。 「さぁ、『メリークリスマス』って叫べ!」 校内主催のクリスマスパーティーもなにもない。 学校で公然とイジメを受け、学校帰りには秘密裏にイジメを受ける。 イジメを受ける少女の名前は碧内 理沙(へきうち りさ)。 アダ名は林檎仏(りんごほとけ)町の蛤(はまぐり)高校でイジメられっこを意味する『桃太郎』だ。 桃太郎は仲間を連れて鬼退治に行くので、この言葉は隠語として使われている。 イジメられっこは鬼役という訳だ。 隠語は誰にも気付かれないように秘密裏に事を運ぶためと、仲間だけで通じる言葉を使う事で互いの結束力を高めるつもりで使われる。 つまりこの『桃太郎』という言葉自体、同世代の連帯感と優越感を高める歪んだ感情の象徴だった。 つまりはイジメを行うこの学校の生徒は鬼退治をする『英雄』だったのだ。 そんな感覚でイジメを行うから罪悪感のカケラもない。 人気のない場所に引きずられた理沙はしばし厳しい視線を向けられていつも通り…。 恐怖に足がすくみ、理沙は目を閉じる。 「…!」 だが、拳が途中で止まる。 …爆発音? 人気のない場所は森の中だったが…森の木々の隙間から爆発音が聞こえた。 「…回りこんで反撃しろ!」 理沙は、凛とした少年の号令が聞こえた。 「だってよぉ…「ミルキーウェイ」!」 仲間が情けない声をあげてふてくされた嘆きをあげた。 「…ひ、ひぃっ!」 イジメっこは腰を抜かした。 とても英雄という姿には見えない。 だが、理沙は。
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