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いつもは重厚さが漂うゲイリーであるが、今は上擦り気味で焦りながら麻理亜へ告げていた。
記憶の端にある、実父の微かな面影と優しい声。
無骨で逞しく巨木の様な義父ゲイリー。
幼い麻理亜を、時に温かく見守り、時に厳しく導き、血の繋がりは無い物の、魂で繋がるゲイリーは紛れも無く麻理亜の父であった。
その父が。
今はどこにでも居る父の様に慌てていて、それが麻理亜には、ただ嬉しく思えた。
「だって・・・
パパに電話した翌日にプロポーズされたから・・・」
「だってもクソも無い。
今すぐ引き返せ!
これは社長命令だッ!」
「パパ・・・
そんなに思ってくれて・・・
私、本当に嬉しいけど。
その命令は聞けませんッ」
麻理亜は初めて見る、ゲイリーの慌てふためく姿が可笑しくて、クスリと笑っていた。
「何だと?
この親不孝者め。
マリアを連れ戻す為に人員を手配するぞ!」
「パパ・・・落ち着いて。
私のここでの仕事は営業(潜入・情報収集)だから大丈夫だよ。
ただでさえ、ウチの社員は少ないんだから」
麻理亜は苦笑を浮かべながら、いつもは冷静である筈が、今は全く聞き分けの無いゲイリーを宥めつつ、NYで真っ先に会うべき人物の元へ向かうべく、タクシー乗り場へと向かった。
「俺は・・・マリアに子供が出来て。
グランパになるのが夢だったんだ。
だからCQC《近接格闘》は禁止だぞ!
母体に悪いから」
「パパ・・・
まだ妊娠してる訳じゃ無いんだし・・・
大丈夫だから心配しないで。
もうタクシーに乗るから、また電話するね」
「おい・・・話はまだ・・・」
ゲイリーの声を最後まで聞かぬまま麻理亜は通話を切り、後部座席の扉を開けっ放しで、客待ち中のタクシーへと近付きバックシートへ身体を投げ入れた。
「すいません。
NY市警までお願いしたいんだけど」
「はいよ。
お客さんみたいな別嬪さんが、いきなりNY市警を告げるとは珍しい
タイムズスクエアとかだと解るけども」
運転手は物珍しそうに麻理亜へ告げると、ドアを閉めた後、ゆっくりと車を発進させた。
「ありがとう。
知り合いに会いに行くのよ。
尤も、タイムズスクエアみたいに人混みで溢れた所は苦手だけどね」
「俺も苦手だけどね。
取り敢えず、NYへようこそ」
ヒップホップ系の音楽に乗せ、砕けた口調で陽気に告げるタクシーの運転手に麻理亜はニコリと笑い掛けて頷いた。
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