Chapter 03 交錯

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いつもは重厚さが漂うゲイリーであるが、今は上擦り気味で焦りながら麻理亜へ告げていた。 記憶の端にある、実父の微かな面影と優しい声。 無骨で逞しく巨木の様な義父ゲイリー。 幼い麻理亜を、時に温かく見守り、時に厳しく導き、血の繋がりは無い物の、魂で繋がるゲイリーは紛れも無く麻理亜の父であった。 その父が。 今はどこにでも居る父の様に慌てていて、それが麻理亜には、ただ嬉しく思えた。 「だって・・・ パパに電話した翌日にプロポーズされたから・・・」 「だってもクソも無い。 今すぐ引き返せ! これは社長命令だッ!」 「パパ・・・ そんなに思ってくれて・・・ 私、本当に嬉しいけど。 その命令は聞けませんッ」 麻理亜は初めて見る、ゲイリーの慌てふためく姿が可笑しくて、クスリと笑っていた。 「何だと? この親不孝者め。 マリアを連れ戻す為に人員を手配するぞ!」 「パパ・・・落ち着いて。 私のここでの仕事は営業(潜入・情報収集)だから大丈夫だよ。 ただでさえ、ウチの社員は少ないんだから」 麻理亜は苦笑を浮かべながら、いつもは冷静である筈が、今は全く聞き分けの無いゲイリーを宥めつつ、NYで真っ先に会うべき人物の元へ向かうべく、タクシー乗り場へと向かった。 「俺は・・・マリアに子供が出来て。 グランパになるのが夢だったんだ。 だからCQC《近接格闘》は禁止だぞ! 母体に悪いから」 「パパ・・・ まだ妊娠してる訳じゃ無いんだし・・・ 大丈夫だから心配しないで。 もうタクシーに乗るから、また電話するね」 「おい・・・話はまだ・・・」 ゲイリーの声を最後まで聞かぬまま麻理亜は通話を切り、後部座席の扉を開けっ放しで、客待ち中のタクシーへと近付きバックシートへ身体を投げ入れた。 「すいません。 NY市警までお願いしたいんだけど」 「はいよ。 お客さんみたいな別嬪さんが、いきなりNY市警を告げるとは珍しい タイムズスクエアとかだと解るけども」 運転手は物珍しそうに麻理亜へ告げると、ドアを閉めた後、ゆっくりと車を発進させた。 「ありがとう。 知り合いに会いに行くのよ。 尤も、タイムズスクエアみたいに人混みで溢れた所は苦手だけどね」 「俺も苦手だけどね。 取り敢えず、NYへようこそ」 ヒップホップ系の音楽に乗せ、砕けた口調で陽気に告げるタクシーの運転手に麻理亜はニコリと笑い掛けて頷いた。
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