アリスの井戸

5/11

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
『ボクはチェシャ猫ってんだ、ヨロシク』 にまーっと満面の笑みで握手を求めてくる。 『チェシャ猫…って、あだ名?よね』 おずおずと差し出された手を握る、ひんやりした柔らかい手だ。 ふいにぐっと引っ張られる。 視界一杯に彼の顔があり、瞳にアタシの顔が写って見える。 『なにするのよ!』 アタシは彼を突き飛ばし、壁際まで逃げる。 『惜しいねぇ、綺麗な髪なのに』 ケラケラとアタシの様子を楽しむ彼、理解できない。 『ま、少しづつ慣れてくれりゃ良いサ』 ボクはいつでもそばにいるよ、と言い残し去っていった。 アタシはぺたりと座り込み、早鐘のようになる心の臓をおさえる。 彼の顔が、声が、なにより瞳の色…カラコンだろうか、うっすら紫がかった瞳が頭から離れない。 逃げられた高揚感も喜びも、彼との数分で吹き飛んでしまった。 アタシ、ヤバい、かも。 ぼーっとした頭で戻った教室では、今まで以上の地獄が待っていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加