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『ねぇチェシャ猫さん、これからどこへ行くの?』
チェシャ猫…ボクは彼女に名を告げることを躊躇った。
彼女の本名も知らない。
名前を呼ばなくても、味方はお互い一人しかいないのだから。
それでも名前をほしがった彼女をボクはAlice(アリス)と呼ぶ。
己の体を蝕んだ奇病の名をつけたのは、アリスという名を浄化したかったのだ。
彼女をアリスと呼ぶことで、己の奇病を彼女への愛情と無理矢理思い込む。
『とにかく南、喋らないで、舌を噛むよ。』
彼女を抱き上げ、今や機能を失いただの足場になった民家の屋根を飛び移る。
意識はしっかりしているが、体はやはりアリスに犯されている。
身体能力が格段にあがり、屋根を飛び移るくらい簡単にできるようになった。
他の感染者も怪力で、家の柱を簡単に握りつぶせる。
しかしイカレテルから、力の使い方がいまいち巧いとはいえない。
ボクは可愛いAliceと憎いアリスを抱き、目的もなく走りつづけた。
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