生きていたシュレティンガーの猫〓白と黒〓

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彼女はカウンターの中央に座った。 「コーヒー」 「かしこまりました」 僕は準備をする。その音だけが静かに響く。 「ありきたりではあるけれど、」 真理の囁くような声が不意に静寂を止めた。 「ここは変わらないわね」 「そうだね・・・新しい学校はどうだった?元気だった?真理もみんなも?」 僕はコーヒーを渡して訊ねた。 「みんな、私よりも元気よ。その内来るんじゃないかしら」 「そっか」 「なんだか嬉しそうね、公平」 真理は優しく微笑んだ。 まぁ、やっぱりその通りなんだろう。正直に言えば、嬉しい。それが一番の気持ちだ。みんなが帰って来るのだから。 「そうだ、あの入り口の所に貼ってあった紙だけれど」 真理はゆっくりとコーヒーを飲み終わってから聞いてきた。 「ああ、アルバイト募集の?今朝、マスターに貼っとけって渡されたんだ。あの人らしい内容で恐縮だろう?」 「そうね。ちょうど良かったわ。それで一人、ここで働きたい人がいるのだけれど・・・」 この日を境にこの喫茶店は忙しくなる。今までの空白を急いで埋めるかのように。僕のはやる気持ちのように。
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