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「俺はお前に憑きに来た幽霊なんかじゃねぇ。大体、お前なんかに憑いても何の得もねぇ。」
そう言われると悲しいんだけど…。
「じゃ…じゃあ何なんですか?」
私はふと先程も見た赤ん坊に目をやった。
「子連れ狼…」
「狼じゃねぇ狐だ」
「きつね……狐?!」
「俺は妖怪…九尾の狐。名を九里という。」
途端に、その男の子の背後から9本の狐の尻尾が現れ、私は息を呑んだ。
今日はゴールデンウィークであってエイプリルフールではない。
しかし目の前でこんなものを見せられては否定のしようもない。
だから私は
考えるのをやめた。
「俺は九尾の長からの命により赤子を預かり、この地へ来た。」
「九尾の長…?」
「長は種をまとめる者の事だ。そして九尾の長は俺の親父だ」
「お父さん?!」
「近代、妖怪の世でも絶滅する種が現れた。それは年々増え続け、俺たち九尾の一族も種の存続が危ぶまれる状況に陥った。」
「つまり絶滅危惧種?」
「動物みたいな言い方をするな」
ムスッとした顔で言い放つ青年。
何だ…整った顔をしていると思ってはいたが…ちゃんと見たらかなりイケメンな部類じゃないか…
…てこの状況で何を考えてるんだ私は…
「絶滅を危惧する種の者達の長同士が集まり、策を練った。しかし前代未聞の状況に、まともな策など出るはずも無かった。
あろう事か九尾の長は人間に赤子を任せると言い出した。
赤子は種の存続においてなくてはならないものだ。この状況で赤子を人間に預ける事ができるはずないと、当然反対派は出てくる。」
「どうして反対するのよ。人間に預けるってだけでしょう?」
「馬鹿かてめぇは…人間が嫌いだからに決まってんだろ」
ごく当たり前のように放たれた言葉はいともたやすく私に突き刺さってきた。
「妖怪の数が減ったのはほとんど人間のせいなんだよ。人間は地をコンクリートで固め、山を簡単に切り拓く。勝手に戦争をしては無関係な生き物をも巻き込み殺していく。
妖怪達が人間を敵視していてもおかしくない事をお前らはやってきたんだよ。」
胸が締め付けられるような感じがした。
散々な言われようだ。
しかし私には言い返す言葉も見つけられなかった。
彼が顔を背けた事でその表情が読み取れなかったのがせめてもの救いだった。
ここであからさまに怒られてたら私泣いてたかもしれない。
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